
2025年11月3日に日本武道館にて開催された「第73回全日本剣道選手権大会」は、多くの元王者が名を連ねる中で、星子啓太選手(東京都・警視庁)が4年ぶり2度目の栄冠を掴み、その戦い方とともに大会全体の潮流について大きな議論を呼ぶ結果となりました。この大会は、剣道の持つ競技性と、伝統的な武道としての精神性の間で揺れ動く、現代剣道の姿を象徴的に映し出したと言えるのではないでしょうか。
| 賞 | 氏名 | 都道府県 | 職業・所属 | 備考 |
| 優 勝 | 星子 啓太 (ほしこ けいた) | 東京都 | 警察官 | 第69回大会以来、4年ぶり2回目の優勝。五段。 |
| 第2位 | 國友 鍊太朗 (くにとも れんたろう) | 福岡県 | 警察官 | 元全日本チャンピオン(2019年)。 |
| 第3位 | 村上 哲彦 (むらかみ てつひこ) | 愛媛県 | 警察官 | 元全日本チャンピオン(2022年)。 |
| 第3位 | 林田 匡平 (はやしだ きょうへい) | 長崎県 | 警察官 | 過去に準優勝(第69回)や3位の経験あり。 |
| 優秀選手 | 黒川 雄大 (くろかわ ゆうだい) | 神奈川県 | 警察官 | |
| 優秀選手 | 伊藤 勇太 (いとう ゆうた) | 埼玉県 | 警察官 | |
| 優秀選手 | 松﨑 賢士郎 (まつざき けんしろう) | 茨城県 | 警察官 | 元全日本チャンピオン(第68回)。 |
| 優秀選手 | 佐々木 陽一朗 (ささき よういちろう) | 千葉県 | 教員 | |
| 優秀選手 | 竹ノ内 佑也 (たけのうち ゆうや) | 東京都 | 警察官 | 元全日本チャンピオン(2014年、2024年)。 |
| 優秀選手 | 西村 英久 (にしむら ひでひさ) | 熊本県 | 警察官 | 元全日本チャンピオン(2015年、2017年、2018年)。 |
第73回全日本剣道選手権大会・決勝戦
1. 王者・星子選手の「試合剣道特化戦法」と技術革新
今大会の覇者である星子選手の剣道は、極めて戦略的かつ効率的であると評価されました。彼は、準決勝で林田匡平選手、決勝で國友鍊太朗選手という歴代の名王者を破る過程で、鍔迫り合いからの「引き面」や、相手の起こりを捉える「小手」を効果的に使用しました。
特に、一本を先取した後の立ち回り、すなわちディフェンスの徹底や、不用意な攻めを避ける試合運びは、「試合剣道特化戦法」と評され、その勝負への執着心と戦術の確かさが際立ちました。これは、一本になるまでの駆け引きや、相手の心を動かして技を出すという伝統的な「攻め合い」の醍醐味を重視する観戦者にとっては、必ずしも称賛ばかりではなかったものの、競技として「勝つ」という点においては、極めて高度な戦術であったと言えます。
2. ベテランと若手の交錯、試合展開の高速化
大会では、準優勝の國友選手をはじめ、村上選手、林田選手といった元チャンピオンやベテランの実力者が上位に食い込み、その経験と円熟した技術を見せつけました。しかし、一方で星子選手や目覚ましい活躍を見せた大嶋選手など、若手選手の活躍も際立ちました。
この新旧の勢力が激突した結果、大会全体の試合展開が、昔に比べて早く決着する傾向が強まったという指摘があります。これは、単に有効打突が増えただけでなく、選手一人ひとりの仕掛けがより多彩に、より高度になり、一瞬の隙を見逃さない、先を取る技術が洗練されてきたことの現れと考えられます。現代のトップ剣道は、スピード、読み、そして決定力が格段に向上していると言えるでしょう。
3. 「競技化」への懸念と大会運営への提言
最も大きな論点となったのは、星子選手をはじめとする一部選手の戦術が、「剣道」の伝統的な精神や美意識に反するのではないかという「武道と競技のバランス」に関する議論です。特に、鍔迫り合いにおける膠着状態や、極端な守りを重視する戦術は、観客や一部の指導者層から「剣道の敗北」といった厳しい意見も出ました。
これは、剣道の試合規則が、現代の競技性の進化に対して十分に対応できていないことの裏返しとも言えます。一部からは、試合運営側が「競技化」の流れに対して規則を細かく作らず放置してきたことが、このような戦術の横行を許しているとの批判も挙がりました。
今後、剣道界が目指すべきは、競技としての公平性を保ちつつ、武道としての尊厳と精神性、そして観戦する魅力をいかに守り、育んでいくかという難しい課題に直面しています。




